最高裁判所第一小法廷 昭和49年(オ)398号 判決 1975年9月25日
上告人
間宮幸一郎
右訴訟代理人
竹下伝吉
外一名
被上告人
村瀬峯夫
右訴訟代理人
野尻力
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人竹下伝吉、同山田利輔の上告理由第一点ないし第五点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨はいずれも採用することができない。
同第六点について
農地法三条による都道府県知事等の許可の対象となるのは、農地等につき新たに所有権を移転し、又は使用収益を目的とする権利を設定若しくは移転する行為にかぎられ、時効による所有権の取得は、いわゆる原始取得であつて、新たに所有権を移転する行為ではないから、右許可を受けなければならない行為にあたらないものと解すべきである。時効により所有権を取得した者がいわゆる不在地主である等の理由により、後にその農地が国によつて買収されることがあるとしても、そのために時効取得が許されないと解すべきいわれはない。右と同旨に出て被上告人先代玉次郎に本件土地につき時効取得を認めた原審の判断は相当であり、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(藤林益三 下田武三 岸盛一 岸上康夫 団藤重光)
上告代理人竹下伝吉、同山田利輔の上告理由
第一点〜第五点<略>
第六点
一、原判決理由第三項の(三)によると、「取得時効による所有権の取得の結果右法条に該当することになる農地につき、右占有権取得の効果そのものまで否定する趣旨ではない」と判示したが、之は農地法の解釈を誤つたものである。
二、農地法第一条によると、「農地はその耕作者みずから所有することを最も適当であると認めて耕作者の農地取得を促進し」とあつて、農地法の目的は極めて明白である。
即ち、地主保護のために制定したものではないのである。
従つて、同法第三条は、同法第一条の目的をうけて「農地について所有権を移転し又は賃借権を移転する場合には知事の許可又は農業委員会の許可を受けなければならない」旨が定められている。
四、よつて、本件農地についても、上告人が之を所有していた以上この農地を被上告人に移転する場合にも同様に農地法第三条の制限を受けなければならないこと当然であるから右許可のない限り移転は無効である。
即ち、同法第三条はその移転原因が売買等の契約による場合に限らず取得時効の場合にも之を適用すべきものである。
しかるに、原判決は同法第三条の所有権移転の制限規定を無視して所有権が有効に移転したものの如くに解釈したのは違法たるを免れない。